島田さんチのこもごも (お侍 拍手お礼の四十六)

        *お侍様 小劇場シリーズ
 


筆者が住まうK市でも、
この11月からゴミの分別回収の仕様が微妙に変わってしまって
母上が大慌て…というお話を日記にも書いておりますが。
(笑)
ゴミは分別して、決められた日、決められた場所に出しましょうというのが、
今や どこのご町内でも当たり前なこととなっている。
焚き火や家庭用焼却炉はダイオキシン発生の恐れがあるからと禁じられて久しく、
その上、CO2削減のためのエコロジー問題が、
市民レベルで語られるお題目として馴染み深くなっているがための細分化でもあり。
訊いたところじゃあ、16とかいやいや24とか、
そこまで細かく分けて別々に回収している地域もあるそうで。
そうかと思や、せっかく住民の皆さんが分けて出しているのに、
収集されたもの全部、
結局は一括されて1つの処分場へ持ってかれてる地域もあるそうで。

 “何だろか、この空回りっぷりは。”

ついつい目が留まったコラムを一通り読んで、
そんな感慨を胸の裡
(うち)にてこぼしたものの、

 「…おおっと、いっけない。」

ぴぴーぴぴーっという電子音が聞こえて、ハッと我に返った七郎次。
少し離れたサニタリーからのもので、
洗濯機が停まったことを知らせて来てのもの。
それがなくとも…今は、
のんびりと読書なんて出来る時間帯じゃあないことを思い出す。
朝食の支度も済んで、ちょっぴりほど手が空いたのでと、
明るいリビングの一角にお膝をついての座り込み、
新聞や生活情報誌の古いの、
空になったんで平たくしたボックスティッシュの箱などなどを、
樹脂素材のロープで束ねている途中だったのにね。
レシピや何や、切り抜いておきたいページはなかったかなと、
捨てる前の確認なんてことを始めちゃったら、
そのままうっかり読み耽ってしまったらしく。
いかんいかんと気を取り直し、
お膝の回りに散らばらせた雑誌をまとめると、
大きさを大体合わせて十文字にロープを掛け、
ぎゅぎゅうっと縛り上げて、はい終しまい。

“確か、平たく開いたダンボール箱が幾つか、
 ガレージ脇のスチールの物置に入ってたな。
 取ってたって湿って黴びたりするばかりだから、
 当座に使うあてがないならば処分した方がいいって、
 収納名人の先生が言ってたな。”

そんなこんなを頭の中で算段しつつ、
手慣れた動作で残りの作業をてきぱきと進め。
今回は3束ほどとなった古紙の束を重ねると、
使ったハサミやロープを整理棚へとしまってから、
よいせと抱えてお勝手へ。
随分と早朝だったはずだけど、
ドアの向こう、お外の空はすっかりと明るんでおり、
働き者のおっ母様の、明るい金絲の髪をつややかに照らし出す。
それへと誘われた…訳でもなかろうが、

 「……。」
 「ああ。久蔵殿、素振りは終えられましたか?」

毎朝必ず、定時に起きて定時に始め、
きっちりと決めた回数、竹刀を振る鍛練を欠かさぬ次男坊が、
庭からリビングの大窓へと戻り掛け、
こちらに気づいて寄って来た。
結構な回数を振っているはずだが、
小汗もかかねば呼吸も乱れてはおらずで。
若いって凄いなぁなんて感心しつつ、
七郎次がやんわりとした笑みをたたえて青玻璃の瞳を細めれば、

 「〜〜。/////////

すべらかな頬をぽわりと染めるのがまた初々しい。
寡黙な子だが目端は利いて、
困っていないか手は要らぬかと、いつも気遣ってくれるのが、
親代わりとしては誇らしいやら…かあいらしいやら。
今も、七郎次の両手が古紙の束で塞がれていたのを見かねたらしく、

 「…。」
 「えと…じゃあお願い出来ますか?」

七郎次とて それなりに鍛えている身で、
この程度ならさして重くはないのだけれど。
朴訥な彼が向けてくれた、かわいらしい気遣いが嬉しくて。
じゃあ甘えさせていただきましょうかと、
新聞紙の束を1つ、お願いしますねと差し出した。



この町内では古紙もまた収集場へと運んで回収してもらう。
島田家から少し歩いた月極め駐車場の手前、
既に雑誌や古新聞の束が幾つか積み上げられており、
先客だろう人影もあって、

 「おはようございます、シチさん、久蔵さん。」
 「おや、ヘイさん。おはようございます。」

ところどこに機械油のしみが滲んだ、作業服姿の平八が立っている。
お寒いですねえ、ええ本当にと、
まずはと お天気の話から切り出して。
そうそう、昨日いただいた すきやき風の肉どうふ。
はい、お口に合いましたか?
ええもう! ゴロさんなんてご飯に掛けてお丼にしちゃってましたvv
そういう食べ方もありましたね、今度やってみようかな…などという、
当たり障りのないやりとりを始めかかったものの、

 「……あっ、と。」

いかんいかん、今日は連れがいるのだと、
思い直して、話の枝葉、あまり広げずにと留め置いて。
じゃあ後でまたとの意を含め、
目顔で会釈を送れば、そこは相手も心得ていて、
はいなと頷き、いい笑顔。
仲良し同士の示し合わせを済ませてから、さて。

 「久蔵殿。」

戻ってご飯にしましょうねと、連れを振り返った七郎次の視線が、
その彼が見下ろしていた何かへと、同じように向いたのは。
意図的に誘導されたから…なんかじゃあなかったのだが。


  “………………え?”


久蔵が寡黙で表情も薄い方なのは、今に始まったことじゃあない。
なので、
どういう意図からそれを眺めていた彼なのか、
ちょい見で判別するのはなかなかに難しく。
そして、そんな彼の思うところを最も酌める七郎次であったはずが、

 「あ……………。///////////

突然の不意に。それはそれは唐突に。
朝の爽やかな空気の中にそりゃあ清かな白をさらしていた頬へ、
さぁっと血の色を上らせてしまったのが。
間近で目撃してしまった平八や久蔵には、
思いがけない艶やかさ、何とも鮮やかに印象づけたほどであり。

 「あ、や…えと、あの。///////

何故かは知らねど、いきなり真っ赤になってしまったご当人はといえば、
狼狽しきりのままに、ますはしどもどと口ごもってしまい、
何をどう取り繕いたいものなのか、とりあえずの窮余の策として、

 「か、帰りましょうね? 久蔵殿。」

ぎこちない言い回しになっての、
しかもわざわざ連れの手を捕まえると。
微妙に理解が追いついてないらしい彼を、
さあさあと引いての促しまでして、急いで戻りましょうという態度。
確かに、学校があろう次男坊を、
呑気にも井戸端会議に加わらせていいはずはなく。
それを思えば彼の行動自体に不審はないが、

 “…何をあんなに赤くなったんでしょうかね?”

そりゃあ瑞々しい美貌の君なので、ずんと若々しく見えるけれど、
確かそろそろ30代が目前というお年の彼のはず。
何をさせても手際がいいし、機転も利いてなかなか頼もしいお人だが、
その反面、どういう育ち方をしたお人なのやらと、
小首を傾げさせられることもなくはない。
絹糸へ金を練り込んででもいるかのような、
そりゃあさらさらとした綺麗な髪に、
表情豊かで、殊にやさしく細められると、得も言われぬ嫋やかさが滲む目許。
柔らかな線ですんなりと通った鼻梁に、
どこも骨張らぬすべらかな頬という細おもては、
金髪碧眼の人にしてはバタ臭くはなく、むしろ繊細さが際立っており。
もしも 婀娜に構えて頬笑みでもしたならば、
蠱惑に満ちた艶麗さにあてられ、花さえ恥じて萎れるだろと偲ばれて。
それだけの風貌と卒のない器量をしていて、
なのに…惚れたはれたという浮いた話も、
振った振られたという沈んだ話もとんと聞かないし。
それどころか、妙な部分が晩生
(おくて)だったり、
物知らずというか あまり世間ずれしていない傾向
(ふし)が、
多々 見られる七郎次でもあって。

 “さては、そっちの何かを突々かれたかな?”

もしかして、グラビア週刊誌か何かの表紙の、
過激なあおり文句で赤くなったとか…と。
だったら可愛いにも程があるとばかり、既に苦笑が絶えないそのまま、
一体どれだと平八が視線を向けた先。

 「……お?」

先客が置いてった古紙の束の、一番上へと乗っかっていたのは、
今さっき恥じらいながら帰っていった七郎次らが持って来たもの。
あれれぇ? じゃあ自分が感じた“かわいいことよ”という推察は、
とんだ見込み違いだったのかしらと。
思い直しかかった平八だったが、

 「あ……☆」

そうか、これかと。
気づいた途端に口元が急激な笑みにたわんだ。
けれど、それと同時に、ああ今気づいてよかった、とも思った。
だって余りに可愛らしすぎる。

久蔵殿がこんなはしたない言葉に目が止まったのは思春期だから仕方がないかも知れないが、そもそもそんな文言が表紙に躍る雑誌なんかを改めもせずの不用意に束ねて処分しかかった自分が恥ずかしい。何て本をお読みかとヘイさんからも笑われないかな…と。

 “そんなこんな思っちゃったのかしらねぇ。”

雑誌の表紙には涼しげなリビングルームの写真が使われており、
恐らくは夏の号と思われて。
その構図を縦横四分割するかのごとく、
白の樹脂ロープがやはり縦横に回されてあるのだが。
縦に回されたロープがど真ん中を通過する格好で重なっていたのが、
特集記事らしき大きめの活字による“見出し”であり。
角ゴシックで掲げられたタイトルは、


  ――― ご家庭でエコ、してますか?


問題なのは、
どの部分にロープによる“立て棒”が加わってしまったのかで。

 “今時、エロなんて言い回しくらいで ああまで赤面しますかねぇ。”

それとも…何か疚しい思い当たりでもあったかな?
いやいや、それこそ余計なお世話の差し出口ですよね。
でもさて、どう言って説明してやろうかな。
何はさておき、
久蔵殿はきっと気づいてなかったに違いないのだと、
それを言ってやればひとまずは落ち着いてくれますかね。

 “でもまずは…ゴロさんに報告せねば♪”

こぉんな面白いこと
(ネタ)、独り占めしていては罰が当たる、っと。
妙に口許ほころばせ、島田さんチのお隣りへ、
こちらもたったか戻ることにしたエンジニアさんで。
さぁさ、どうやってどの範囲で、
このかあいらしいお話 広まるのでしょうねぇvv





  〜どさくさ・どっとはらい〜  08.11.05.


  *とりあえず、勘兵衛様には一番最後に伝わるのでしょうね。
   あ、いや待てよ。
   次男坊へも“寝た子を起こすな”で伝わらないかもしれないし。
   ヘイさんとゴロさんの胸へだけ、しまっといてくださいと、
   賄賂の煮物、煮魚、栗きんとんに練りきり etc…
   豪華三段重ねの折り詰めをこそり持ってゆくシチさん、へ、
   踏ん張って五千円!
(こらこら)


めるふぉvv
めるふぉ 置きましたvv **

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